2024/4/18
「ヘラヘラしてその場を取り繕う」人見知りのホンネを描いた漫画に学ぶ、心地よい人付き合い【漫画家インタビュー】
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学校で、職場で、プライベートで。生きていく上で切っても切れないのが人付き合い。それだけに、人見知りだったり、人付き合いが苦手だったりするとさまざまなシーンで苦労することが容易に想像つく。累計34万部のヒットとなった『スリム美人の生活習慣を真似したら1年間で30キロ痩せました』シリーズで知られる漫画家・わたなべぽんさんも、人見知りで付き合い下手と自認していた。友人も少なく、その友人との関係も付き合いを深めていくうちに“上下関係”のようなものに変化してしまい、付き合いそのものが辛くなって疎遠になってしまう…ということがあったそう。そんな自身の人付き合いについての試行錯誤を描いたコミックエッセイ『人見知りの自分を許せたら生きるのがラクになりました』が人見知りに悩む人たちから大きな共感を得ている。わたなべさんに、人見知りの日々について話を聞いた。
人見知りにはいくつかのパターンがある?「必死にその場を取り繕うタイプでした」
友人との付き合いが、最初は対等な関係だったにも関わらず、次第に上下関係に変化することがあると感じていたわたなべさん。逆に、その場限りの付き合いについては悩むことはなかったのだろうか?
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「人見知りにもいくつかパターンがあると思っていて、例えば人から見られていると思うと萎縮して話せなくなってしまう自信喪失タイプや、馬鹿にされるのを怖がるあまりに先にマウントを取りに行ってしまう強がりタイプなどがあると思うんですよ。私の場合は、相手にうっかり人見知りな自分を見せてしまったら気を使わせてしまうんじゃないだろうかと不安になって、自分を殺して、必死にその場を取り繕うタイプです。だからその場ではうまく交流できているように見えますが、いざそこからより親密な人間関係を作ろうと思うと、『何を話せばいいんだ(焦)』と怖くなって、次にまた会うのを避けてしまうんですよね。だから私の人見知りは、その場限りの付き合いは比較的こなせていたように見えて、実は内面ではガチガチに壁を作っていた……という感じだったように思います」
そんなわたなべさんが変わる大きなきっかけになったのが鹿児島県・与論島へのひとり旅。ここで、初対面の人と仲良くなり、その場で会った地元の人たちと食事を共にする。これだけを聞くと「人見知りで付き合い下手とは思えない!」と思う人もいるかもしれない。わたなべさん自身でも、これらの出来事は非日常である旅の中だったからこそ起きたことと考えているのだろうか?
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「ひとり旅ですから当然食事も観光もどうするかはすべて自分で決めるんですけど、物事を自分本位で決めていいというのが私にはなんだかとても新鮮でした。誰かと出かけるとき心の中では『この人は今どうしたいだろう』『疲れていないかな』と相手のことばかり気にして、自分のことは二の次ということが多かったので。この初めてのひとり旅の間、私の中では自主性みたいなものが育っていったのかもしれません。だから、好ましいと思えた人に友達になりたいと告げることができたのかもしれないなぁと思っています。ただ、与論島だったから人見知りが和らいだとか、旅先だったから友達になりやすかったというわけではなくて、滞在中自分の中で『人見知りを治したい』『もう少し人付き合い上手になりたい』という願望が浮き彫りになったこと、改善しようという前向きな気持ちが芽生えたことが一番のきっかけだったのではと思っています。なので、人見知りを直すためには旅に出ねばとか、非日常に身を置かねばということではなく、改善したいと思ったときが『自分の変わり時』なのではないかと思っています」
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そして、帰宅後、与論島で友達になった人との飲み会に行くことに。その場にいた人たちからの発言を悪い方向に捉えてしまう悪いクセを持っていることに気づくことに。クセを自覚することで、自分の考えを軌道修正することができるようになったそう。
「クセ自体は正直に言えば、まだあります。でも以前とは違い、ネガティブに受け止めそうな自分に気が付いたとき、その考えを直ぐに停止、違うことを考えるという技ができるようになりました(笑)。嫌なことを考えそうになったら無理やりグイっと楽しいことを考えるんです。例えば『そうだ、この前見つけたおいしそうな中華屋さん、いつ行こうかな~』とか『次に旅行に行くとしたらどこにしよう』とか。そうすると心にのしかかろうとしている黒いものがパーッと霧散して、一気に気持ちが楽になるし、ウジウジと長引かないからその後の時間も気分よく過ごせます。他人の考えは、私がいくら想像したところで本当のところは絶対にわかりませんから、そんな分からないことでウジウジ悩み続けるのはもうやめようと思っています」
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他者からの評価が気になるということは、人見知りに限らずあるのではないだろうか。ネガティブになりそうなときは、わたなべさんのマインドを参考にしてみてはどうだろう。
意見を言わない人は意見を期待されなくなっていく。漫画を通じて自分の意見を表現できるように
現在は漫画家として活動しているわたなべさんだが、過去、会社勤めをしていた経験もあったそう。新人研修を受けていたころ、同期から「誰もおもしろいこと言ってないのに、なんで笑ってんの?」「ヘラヘラして見えるからやめた方がいいと思うよ」と言われてしまう。これ以外にも、会社員時代人見知りで苦労してしまったことはあったのだろうか?
「人見知りがバレたくない人見知りだった私は、笑うことでその場に馴染もうとしていたし、ハッキリ意見を言うことや拒否することが苦手だったので、周りからは『ヘラヘラしてる人』『物事あまり深く考えない人』と思われていたみたいなんですね。意見を言わない人というのは、普段から意見を期待されなくなっていくみたいで、『わたなべさんもこれでいいよね』みたいな感じで、私の気持ちをスルーされることが増えていったような気がします。その結果、よくわからない雑務が増えていたり、レクリエーションの日程も勝手に決められていたり…。あとはやっぱり部署の人達とのランチタイムがめちゃくちゃ苦手でしたね。毎日のように顔を合わせて世間話するなんて私には拷問にも等しいと思っていました(笑)。入社して数カ月後、あまりに辛くなってきたので、『節約のために自炊していて…』とお断りして、自分のデスクや敷地内のベンチで、ひとりでランチするようになってホッとしたことを覚えています」
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会社を辞めて、仕事での人付き合いはどのように変化したのだろうか?
「アシスタントさんを雇っても、人見知りでうまくお仕事を頼めなさそうなので、デビューしてからずっとひとりで漫画を描いてきたんですけど、やっぱり会社員の頃と比べて圧倒的に接する人数は減りましたね。基本お取引のある編集部の担当さんのみ、ほんの数人とのやりとりで仕事ができてしまいます。担当さんとのやり取りは、始めはやはり緊張感がありましたが、描いている作品が心の中を描くエッセイということもあり、自分の考えを腹を割って話さなくてはならないことも多くて。担当さんたちもそれに応えて同じように腹を割ってご自分のことを話してくださるので、私としてはとても信頼をおいていて、居心地の良いものだと感じています。仕事上では数人の編集さんとのやりとりだけですが、仕事を通じて漫画家さんやイラストレーターさんとの横のつながりができたのがとてもうれしかったですね」
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人見知りの人付き合い下手…。自分のような悩みを持つ人の背中を押したい
会社員時代には自分の意見をなかなか言えないでいたわたなべさんだが、コミックエッセイを通じて自分の意見を表現できるようになり、結果仕事の成功につながっていったようだ。わたなべさんはかつて“汚部屋”住人でもあり、そこからの脱却を描いた『ダメな自分を認めたら部屋がキレイになりました』も上梓している。“ダメな自分を認める”、“人見知りを許す”というのは自己分析であり、自己容認と言えるだろう。自分を卑下する自虐ではなく、正しく自分を見つめる自己分析をどのようにしているのだろうか?
「自己分析、私自身はあまり得意とは思っていないんです。あえて言うのであれば『自分を好きになりたい』(幻冬舎刊)でも描かせてもらった通り、子どもの頃から母との関係が良くなかったことで、幼い頃から『どうして私は母にこんなに叱られてばかりなんだろう』『私のどこがそんなに悪いのだろう』と自分を省みるクセがついていたのが今の自己分析につながっているのではないかと思っています。今現在、自己分析をする上で気を付けているのは客観視です。第三者の目線になって自分のことを見つめることができたら…と、いつも思ってます。例えば部屋が汚く人見知りなのが、友達のことだとしたら私はどう思うだろうか、何をしてあげられるだろうかと考えてみることが多いかもしれません」と語るわたなべさん。物語冒頭に登場したHさんとも、本来の対等な友人同士に戻れたと思っているそう。
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「以前より気楽に付き合えています。自虐ネタを話題提供に使わないと自分の中で決めてから、“アドバイスする人”VS“いつも何か悩んでるダメな人”という構図がなくなって、本来の形に戻れたと思っています。ただ、以前よりは少しだけ距離は感じる気はしますね。もちろん嫌な距離ではなくて、お互いを尊重し合える距離というか。言いたいことを言ってぶつかり合って常に近くに…という関係は私には向いていないと思うので、今くらいの付き合いがとても心地よくてありがたいと思っています」
最後に、人見知りに悩む方へのメッセージをもらった。
「人見知りの人付き合い下手でこれまで生きてきた私は、対人関係への苦手意識が体にしみついているような状態でした。人と疎遠になるたびに自分を責めてしまって何度も傷ついてきたので、新しい人間関係を築くことに恐怖心がありました。でも今は少し怖がり過ぎていたのかな、なんて思っています。この本が『私も変わってみたい』と思っている方の背中をそっと押すことができるならうれしいです」
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取材・文=西連寺くらら
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